超音波検査「腹水③」
腹水は種々の原因で発生しますが、胃腸などの消化管の炎症が原因で腹水が見られることがしばしばあります。①~⑤は胃アニサキスの同一症例画像です。アニサキスはサバやイカなどの海産物に寄生する体長3-4㎝の線状の寄生虫で、アニサキスが寄生する魚介類を生食するとアニサキスが人体の胃や小腸の壁に噛みつき侵入し、激しい腹痛や嘔吐などの症状を生じます。①~③のエコー像でも、胃壁(橙色矢印)は高度に肥厚し、肥厚した胃壁の周囲には胃の炎症により生じた少量の腹水 (赤色矢印)が黒くエコーで観察できます。アニサキスの症状はアニサキス虫体に対するアレルギー反応により起こるため、虫体の刺入部が小さくても胃壁は炎症により高度の壁肥厚を示し、しばしば周囲に腹水を認めます。④,⑤はこの症例の内視鏡像で、④では黄色矢印の所で胃壁に噛みつき侵入しているアニサキス虫体(水色矢印)を認め、⑤で内視鏡による虫体摘出を行ないました。⑥~⑧も胃アニサキスが疑われた同一症例画像で、⑥,⑦では高度に壁肥厚した胃(橙色矢印)と肥厚した十二指腸(黒色矢印)が観察され、胃の背後に少量腹水(赤色矢印)が黒く見えています。⑧の内視鏡像では、アニサキスが噛みつき胃壁内に侵入したたために生じたびらん面を伴う丘状の変化を認めていました。
⑨~⑫は大腸憩室炎の同一症例画像です。憩室とは、消化管の壁の一部が袋状に外側に出窓の様に飛び出したもので、糞便が貯留して憩室内に細菌感染による炎症が起こると憩室炎を発症し、腹痛や発熱の原因となります。⑨~⑫のエコー画像では、いずれも炎症により肥厚した大腸(黄色矢印)が観察でき、大腸より外側に突出した憩室(緑色矢印)の内部には憩室に詰まった便である噴石がエコーで白く見え、⑨では噴石は背後に影(桃色矢印)を引いて見えます。また炎症により肥厚した大腸(黄色矢印)の背側や憩室(緑色矢印)の周囲には、炎症波及により発生した腹水(赤色矢印)が少量ですがエコーで黒色線状に確認できます。⑬~⑮は虫垂炎の同一症例画像です。虫垂は誰もが生まれがながらも持っている長さ4~5cmのひも状の突起物で、ここに便などが固まった噴石が詰まったりすることで虫垂に細菌感染をする病気が虫垂炎で、一般の人には「盲腸」という呼び名で知られています。⑬~⑮では、炎症のために肥厚した大腸(黄色)と、その背側の腎臓(白色矢印)の表面に腹水(赤色矢印)が黒くエコーで見えます。⑭,⑮では肥厚した大腸(黄色矢印)の背側に微小膿瘍(紫色矢印)がエコーで淡い黒色に見え、⑮では大腸の背側に腫大した虫垂(水色矢印)が見えています。この症例では外科手術が行われ、虫垂の穿孔による膿瘍形成と腹水貯留が確認されました。
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