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超音波検査(消化管)

超音波検査「消化管」

エコーでは、気体の裏側は影になり映りません。胃や大腸などの腸管は内部に気体(胃ではゲップ、大腸ではオナラのガス成分)があるために、超音波検査では消化管の診断は難しいことも多いです。しかし、消化管に病気による大きな変化が起こると腸管の壁が肥厚し、消化管内のガスが追いやられることで、エコー検査でも消化管の病気を評価できることもあります。①,②は正常の大腸をエコーで見た画像です。②では大腸のハウストラと呼ばれるアコーデオンのようなヒダ(水色曲線)に沿って白色のガスが見え、ガスの背後にはガスの影(紫色矢印)が黒く見えています。肥厚していない正常の大腸壁は薄く、エコーでははっきり判別できませんが、このように腸管壁がはっきりせず、大腸ガスが影を引いて見えれば大腸に大きな異常はないと推測できます。一方、炎症などで腸管壁が肥厚すると層構造がみえやすくなります。③は虚血性大腸炎のために肥厚した大腸の短軸像です。腸管壁は、粘膜層、粘膜下層、筋層、漿膜の4層からなり、短軸像で見ると弓道の的の様に見えます。③では中心のガス層を合わせると5層に見え、中心の白色の腸管内ガス(白色矢印)、黒色の粘膜層(水色矢印)、白色の粘膜下層(緑色矢印)、黒色の筋層(赤色矢印)、白色の漿膜(黄色矢印)の計5層が見えています。


④はキャンピロバクターによる感染性腸炎の大腸です。短軸像、長軸像でともに層構造の保たれた壁肥厚を認めています。中心から白-黒-白-黒-白の5層が確認でき、腸管ガスの第1層(白色矢印)、粘膜層の第2層(水色矢印)、粘膜下層の第3層(緑色矢印)、筋層の第4層(赤色矢印)、漿膜の第5層(黄色矢印)が観察できます。また、第1層の腸管ガスが背後に影を引くこともあり、④の長軸像でも背後に影(紫色矢印)が見えます。逆に、腸管内のガスが乏しいと第1層がはっきりしなかったり、また周囲に炎症が波及して,腸管周囲の腸間膜に付着する脂肪組織と第5層の漿膜がはっきり識別しにくいことも時にあります。⑤は虫垂炎により肥厚した虫垂の画像です。虫垂内部には腸管ガスは見られず、虫垂内の膿の成分と第2層の粘膜層が合わさって中心が黒色に見え(水色矢印)、その外側に白色の粘膜下層(緑色矢印)、黒色の筋層(赤色矢印)が順に見えています。この症例では最外層の白色の漿膜は周囲の腸間膜脂肪組織と判別が難しいものの、一部で薄い白色の層(黄色矢印)として確認できます。このように、ある程度の炎症により腸管壁が肥厚すると、腸管壁の肥厚と共に、腸管の層構造がはっきり確認できるようになります。


ある程度の炎症では腸管壁が肥厚し、その層構造が認識しやすくなりますが、炎症が高度になると腸管の層構造は炎症により破壊され、エコーでは層構造が識別困難になります。⑥は軽度炎症の潰瘍性大腸炎で、層構造は保たれています。しかし⑦の中~高度の潰瘍性大腸炎では、中心に第1層の腸管ガス層(白色矢印)を認め、その外側の2~4層は黒色に肥厚し壁の層構造が判別できず一体になっています(青色矢印)。本来なら白く見える第3層の粘膜下層は、高度炎症により黒色に見え層構造が判別できません。肥厚した大腸壁の中に白色線状部(橙色矢印)を認め、潰瘍形成が疑われますが、第5層の漿膜層(黄色矢印)は保たれているように見えます。また腸管壁の肥厚は、炎症以外にも癌などの悪性腫瘍でも起こります。⑧,⑨は進行大腸癌のエコー像です。癌が筋層まで浸潤すると壁の層構造は破壊され、腫瘍成分が腸管壁と一塊となった限局性の腸管壁肥厚がエコーで黒く見えます。また腫瘍により狭窄した腸管内腔の腸管ガスは白く見えます。この見え方はシュード・キドニー・サインと呼ばれ、進行大腸癌の典型的エコー像です。シュード=偽り、キドニー=腎臓という意味で、中心が白く外が黒い腎臓の様に見えるため、'偽りの腎臓'という意味でこのような名前が付いています。

(⑪は中心が白く、外側が黒い正常腎臓のエコー画像です)

 

参考ブログ:

超音波検査(虫垂)   超音波検査(大腸①)

超音波検査(大腸②)  超音波検査(大腸③)

超音波検査(大腸④)  超音波検査(大腸⑤)

超音波検査(小腸①)  超音波検査(小腸②)