腹部膨満(お腹がはる)
腹部膨満とは
腹部膨満感は、何らかの原因で腹部の張りを自覚する症状で、腹腔内に腹部を膨らませる物資が貯留することなどにより起こります。腹部膨満を起こす原因は、消化管内容物の増加、腫瘍、腹水貯留、婦人科疾患、その他の原因に大きく分けられますが、複数の要素が腹部膨満の症状の発生に関与していることもあります。消化管内に内容物が溜まることにより起こる腹部膨満には、腸閉塞や腫瘍による腸管閉塞のように物理的に腸管内腔が閉塞することで生じる器質的なものと、便秘や機能性胃腸症のように器質的な閉塞部位は認めないものの胃腸の運動機能の低下により起こる機能的なものがあります。また、種々の原因により腹水が貯留することで腹部膨満が生じたり、腹腔内の腫瘍性病変や嚢胞性病変、婦人科疾患、尿閉などでも腹部膨満はおこります。このように腹部膨満の原因は多岐にわたるため、腹部の張り以外に併存する症状などからその原因をある程度絞り込んだうえで、エコーやCT、内視鏡による画像検査や、血液検査などを行うことで原因を特定し、原因に応じて適切な治療を選択することが必要になります。
腹部膨満の症状と原因
腹部膨満は腹部を膨らませる物資が腹腔内に貯留したりすることにより起こります。腹部膨満の原因としては、①消化管内容物の増加による膨満、②腫瘍による膨満、③腹水貯留による膨満、④婦人科疾患によるもの、⑤その他の原因に大きく分けられますが、複数の要素が腹部膨満に関与していることや、ある原因が複数の要素を引き起こし症状を発生させていることもあります。消化管内容物の増加に関しては、胃や腸の中にガスや便、消化液などが貯留することで腹部が腫れますが、その原因として腸閉塞などのように物理的に明らかな通過障害を起こす腸管閉塞が原因で内容物が貯留する場合と、単なる便秘のように腸管を閉塞する器質的病変がないにもかかわらず機能的な胃や腸の運動機能の低下が起こり腹部膨満を生じるものに分けられます。また、胃癌や大腸癌、膵臓癌などの悪性腫瘍では腫瘍の影響により消化管の運動機能低下を生じることもありますが、悪性腫瘍ではしばしば腹水貯留が腹部膨満の原因になることがあります。腹水貯留を引き起こす原因としては、悪性腫瘍以外にも、肝炎や肝硬変、腎不全、心不全などがあげられます。さらに、卵巣腫瘍や子宮筋腫などの婦人科疾患も腹部膨満の原因となりますし、病気ではないものの妊娠でも腹部膨満を起こします。それ以外には尿閉による膀胱内の尿の貯留や巨大な肝嚢胞や膵嚢胞、肥満や食べ過ぎなども腹部膨満の原因となることがあります。
①消化管内容物の増加による膨満→ガスや便、消化液などの貯留
→A)閉塞部位なし(便秘、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、呑気症など)
→B)閉塞部位あり(腸閉塞、消化管の腫瘍性病変、炎症による腸管狭窄など)
②悪性腫瘍による膨満
③腹水貯留による膨満→悪性腫瘍、腎不全、心不全、肝硬変・肝炎などによる腹水
④婦人科疾患による膨満→卵巣腫瘍、子宮筋腫、PMS(月経前症候群)、クラミジア感染などの骨盤腹膜炎による腹水など
⑤それ以外の原因による膨満→肝嚢胞、膵炎後の膵嚢胞、尿閉、ヘルニア(臍ヘルニア、腹壁瘢痕ヘルニア)、肥満、食べ過ぎ、妊娠など
①消化管内容物増加による膨満
ガスや便や消化液などが胃や腸に貯留すると腹部膨満の原因となりますが、消化管内容物が貯留する原因には消化管は実際には閉塞していないものの胃・腸の動きの問題により内容物が貯留し膨満感を感じる消化管の機能的疾患(便秘、過敏性腸症候群、逆流生食道炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、呑気症など)と、物理的に消化管が閉塞している器質的な病気(腸閉塞や消化管の腫瘍性疾患など)に分けられます。
●機能性の便秘(いわゆる便秘)
腸の形に物理的な異常はなくても、蠕動運動が弱まることで便が出にくくなり起こるのが、いわゆる便秘症です。食物繊維不足や運動・睡眠不足、ストレスによる自律神経の乱れなどの生活習慣が悪化要因となり、年齢とともに蠕動機能が低下して便秘になることもよくあります。便秘が続くと腸内細菌のバランスが崩れ、ガスが増えて便がたまり、お腹の張りの原因になることもあります。さらに、甲状腺機能低下症やパーキンソン病などでは、病気の影響で重い便秘が起こる場合もあります。
●過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、腸に明らかな異常がないのに慢性的な腹痛や下痢・便秘が続く病気です。強いストレスなどが原因で腸の動きが乱れ症状が悪化することも多く、精神的な影響も大きいと言われています。下痢型の人が多い一方で、便秘型では排便回数が減り、お腹の張りや腹痛、残便感などの症状が出ることがあります。
●機能性胃腸症
機能性胃腸症は、胃や腸に目立った異常がないのに、腸管の運動機能の不調により上腹部の痛みや胸やけ、腹部の張り、食欲不振、ゲップの多さなどを感じる病気です。胃カメラなどの検査で腫瘍や潰瘍といった異常が見つからなくても、症状が持続するときに機能性胃腸症と診断され、胃腸の動きの問題でこうした症状が生じると考えられています。対応としては、規則正しい生活を心がけてストレスを減らし、症状が強い場合は胃腸の動きを整える薬を使うことで対処します。
●逆流性食道炎
逆流性食道炎は、胃の中の胃酸が胃と食道の境目を越えて食道に逆流し粘膜を傷つけることで、胸やけや嘔気、胃酸が上がってくる感覚、むかつきなどを引き起こす病気です。上腹部の痛みやお腹の張りが出ることもあります。生活習慣の見直しや制酸剤の使用で症状が改善・軽減することが多いですが、治りにくい場合は大きな食道裂孔ヘルニアが悪化に関わっていることもあります。
●胃炎や十二指腸炎
胃には食べ物を消化するための胃酸がありますが、胃炎や十二指腸炎になると、その胃酸が胃や十二指腸の粘膜を傷つけ、吐き気や食欲不振、上腹部の痛みやお腹の張りといった症状が生じます。原因は、暴飲暴食やストレス、解熱鎮痛剤の服用などで急に起こることもあれば、慢性的に経過する場合にはピロリ菌の感染が関わっていることも多いです。
●胃潰瘍や十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸によって胃や十二指腸の粘膜が大きく傷つくことで起こり、みぞおちの痛みや吐き気、食欲不振、お腹の張りなどの症状が出ます。多くの場合は制酸剤を使った内服治療で改善しますが、潰瘍が深くなり穴が開く穿孔が起こると手術が必要になります。発生にはピロリ菌感染が関わっていることが多く、感染例では再発予防や将来の発がん予防のために除菌治療がすすめられます。
●呑気症
呑気症は、無意識に空気を飲み込んでしまい、その空気が胃や腸に溜まってお腹の張りや不快感、ゲップの増加などを感じる状態です。食事中に話しながら食べたり早食いをしたりすると、食べ物と一緒に空気を飲み込みやすくなります。また、ストレスや緊張といった精神的な影響でも空気を飲み込み、発症することがあります。
●腸閉塞
腸閉塞は、いろいろな原因で腸が狭くなったり詰まったりして、小腸に食べ物や消化液がたまり、腹痛やお腹の張り、吐き気や嘔吐を引き起こす病気です。よくあるのは、過去の腹部手術の影響で腸間膜が癒着して起こる癒着性腸閉塞です。手術歴がなくても、ヘルニアやお腹の中のひも状の組織などで腸が詰まることがあります。癒着性腸閉塞は保存的治療で良くなることもありますが、保存的治療で改善しない場合や血流障害を伴う絞扼性腸閉塞では手術が必要になります。
●その他の消化管の閉塞性疾患
消化管の内容物が増加して腹部膨満が起こる原因には、それ以外にも消化管の物理的な閉塞を生じる病気があります。大腸癌や胃癌などの消化管の悪性腫瘍ででは、腫瘍が消化管内の通り道を塞いで腸管閉塞を起こし腹部膨満を認めることがあります。また、比較的稀ではあるものの、大腸憩室炎やクローン病などでは腸管の炎症により腸管狭窄が起こり内容物が通りにくくなることがあります。
②悪性腫瘍による腹部膨満
腹腔内にできた悪性腫瘍は、しばしば腹部膨満の原因になります。胃癌や大腸癌など消化管の腫瘍では、腫瘍が消化管の内腔を物理的に狭くしてしまい、消化液や便がたまりやすくなって腹部が張ることがあります。膵臓癌や肝臓癌、胆嚢癌、卵巣癌など消化管以外の悪性腫瘍でも、病状が進行すると高度の腹水が貯留し腹部膨満の原因になります。また癌が転移して腹膜播種や腹水貯留を起こすと、消化管の動きが悪くなり、膨満が起こることもあります。場合によっては、腫大した腫瘍自体の大きさが膨満の原因になることもあります。
③腹水による腹部膨満
腹水は、腹腔内で腹部臓器と腹壁の間にたまる液体のことで、通常でも20〜50mlほど存在しますが、何らかの理由で大量にたまるとお腹の張りの原因になります。腹水貯留の原因はさまざまで、腹腔内の悪性腫瘍が進行するとしばしば高度な腹水が生じます。また、悪性腫瘍以外にも肝炎や肝硬変、腎不全、心不全などでも腹水がたまり、腹部膨満を引き起こすことがあります。
④婦人科疾患による腹部膨満
女性に腹部膨満が見られた場合、婦人科疾患が原因のことがあります。卵巣腫瘍は時に急速に大きくなり、それ自体が膨満の原因になることもあります。特に悪性の卵巣腫瘍では大量の腹水を生じ、腹水を介して腹膜に癌が広がると転移性の腫瘤を作ることもあります。大きな子宮筋腫も膨満の原因となるほか、月経前症候群(PMS)ではホルモンの影響で月経前にイライラや倦怠感、腹部の張りや痛みを感じることがあります。さらにクラミジア感染などによる骨盤腹膜炎では下腹部痛とともに腹水が多くたまり、腹部膨満の原因になります。
⑤その他の原因による腹部膨満
その他の腹部膨満の原因として、尿閉もあります。尿閉は膀胱から尿が排出できず多量の尿が膀胱にたまり下腹部の痛みや張りを感じる状態で、男性に多く見られ前立腺肥大がその原因となります。稀に、肝嚢胞や膵嚢胞など、肝臓や膵臓に液体がたまった袋(嚢胞)ができて腹部膨満を感じることもあります。さらに、臍や腹部の手術後の瘢痕から腸管などが出てくる臍ヘルニアや腹壁瘢痕ヘルニアでも腹部の膨満が見られます。また病気ではありませんが、妊娠や食べ過ぎ、肥満などでも腹部膨満を生じることがあります。
腹部膨満感の検査と診断
腹部膨満の原因となる病気は数多くありますが、排便の様子や腹痛の有無など、他の症状からある程度その原因を推測できることもあります。ただし、原因を特定するには各種検査が必要になります。腹部エコーやCTなどの画像検査では、腹水や腫瘍、腸管閉塞の有無など腹腔内の状態を確認できます。ただし、エコーは気体の裏側は描出できないため腸管ガスが多いと評価が難しく、CTでの検査が必要になることもあります。一方、妊婦の腹部膨満では放射線を使うCTは避けられ、エコーでの画像検査が選択されます。消化管の病気ではエコーやCTで診断できる場合もありますが、詳細な観察と診断には胃カメラや大腸カメラといった内視鏡検査が必要なことも多いです。腹水貯留が腹部膨満の原因になっている場合には、腹水貯留の原因を特定する必要があります。悪性腫瘍がその原因として疑われる場合には、エコーやCT、内視鏡などの画像検査が必要になります。肝硬変や腎不全による腹水では、画像検査とともに血液検査で肝機能や腎機能を確認し、炎症が関与している場合も血液検査で炎症の程度を評価できます。また、心不全による腹水が原因の場合は、心エコーで心機能を評価することが必要になります。
腹部膨満感の治療
腹部膨満感を引き起こす病気はさまざまで、その治療法も原因となる病気によって異なります。胃炎や十二指腸炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、便秘症や機能性胃腸症など、消化管に物理的な閉塞を認めない場合は、内服薬による治療が多くの場合で選択されます。腸閉塞のように物理的な狭窄がある場合でも、癒着性腸閉塞では一時的な絶食やイレウス管挿入などの保存的治療が行われることが多いですが、保存的治療で改善しない場合や絞扼性腸閉塞では外科手術が選択されます。悪性腫瘍が原因の場合は、病状の広がりを的確に評価し患者さんの年齢や体力を考慮して最適な治療法を決定します。腹水貯留が原因で膨満感がある場合も、その原因によって治療は異なります。骨盤腹膜炎など炎症が原因の場合は抗生剤治療が行われ、心不全や腎不全による場合には専門の循環器内科や腎臓内科での治療が必要です。婦人科疾患が原因の時は婦人科での検査・治療が、尿閉では膀胱にカテーテルを挿入して排尿を行い泌尿器科で原因疾患への治療が行われます。













