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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群とは腸管自体には器質的な異常はないものの、慢性的な腹痛を認めたり、下痢や便秘などの排便障害(排便の回数や、便の形状の異常)が長期にわたって持続する疾患です。過敏性腸症候群は生死に関わる病気ではありませんが、その症状のため不安を感じて、バスや電車などトイレのない場所に長時間いられないなど、日常生活を送る上で支障をきたすこともあります。腸管は食べ物を消化・吸収し不要なものを便として排出するといった腸管蠕動運動を行っていますが、脳が知覚機能で腸管の状態を把握し腸管運動を制御しています。過度にストレスがかかったりすると、腸管の収縮運動が乱れ、知覚過敏の状態になることで、過敏性腸症候群の患者さんは症状を強く感じてしまうと考えられています。しかし、慢性的な腹痛や排便障害などの症状は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患や大腸癌などの器質的疾患でもみられることがあり、大腸内視鏡などの検査で腸管に明らかな疾患が認めないにもかかわらず上記のような症状を認める場合に、過敏性腸症候群と診断されます。治療としては、生活習慣の改善にてストレスを減らし、時に内服薬を使用することで、症状の軽減を目指します。


過敏性腸症候群の症状

過敏性腸症候群では、数か月以上にわたり慢性的な腹痛や、下痢や便秘などの排便異常を認め、しばしば排便回数の異常や便の形状の異常が長期間にわたって継続します。過敏性腸症候群は大きく分けて、下痢型、便秘型、混合型などの形態があり、下痢型の場合は水様の下痢状の便を1日に何度も認め、時に激しい腹痛を伴います。しばしば水様性の下痢の症状を急に認めるために、外出するのがおっくうになったり、通勤や通学などでトイレのないバスや電車に乗ったりすることに恐怖心を感じることもあります。そのような不安やストレスが、さらに腹痛や下痢の症状を悪化させることもあります。便秘型では、腸管の痙攣様の過剰の動きにより排便前に腹痛が起こり、何度もいきまないと排便できなかったり、残便感に悩まされることもあります。混合型では、下痢と便秘の症状をくりかえし、しばしば激しい腹痛を伴ったりします。また、過敏性腸症候群では、排便すると腹痛の症状が一時的に軽減したり、ストレスがかかると明らかに症状が悪化したりするという特徴もあります。そのために、試験や多くの人の前で発表などをする場面、大切な会議などで、しばしば腹痛や便意を強く感じたりすることもあります。


過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群の原因ははっきりとわかっていませんが、ストレスや不安、過度な緊張などの精神的な要素や、腸内細菌の変化などが関係しているのではないかと考えられています。

過敏性腸症候群の患者さんでは、しばしばストレスや不安で症状が悪化することが知られており、これらの精神的な要因が時に過剰な腸管の蠕動運動や、知覚過敏状態を引き起こす一因であると考えられています。腸管は食物を消化・吸収し、不要なものを便として体外に排出する役割を果たしています。腸管の収縮と蠕動運動をスムーズに行うために、脳は腸管の状態を知覚機能で把握し、自律神経を通じて腸管運動を制御しています。ストレスがかかったり不安が大きくなると、自律神経のバランスが崩れ、腸管の収縮運動が乱れることで、また腸管からの知覚機能が過敏になることで、過敏性腸症候群の患者さんは症状を強く感じるようになると考えれらています。

また、一部の患者さんでは感染性腸炎にかかった後に、過敏性腸症候群を発症することがあり、腸内細菌の変化などが腸管の運動機能や知覚機能のバランスを変化させ、発症に関与している可能性も考えられています。

過敏性腸症候群の検査と診断

過敏性腸症候群では、腸管の蠕動運動が激しくなったりする機能的な問題であったり、腸管の知覚過敏により腹痛や排便障害などの症状を認めるために、内視鏡やエコーなどの画像検査で見てみても、腸管自体には大きな異常所見は認めません。また、血液検査などで、過敏性腸症候群で陽性を示す特異的な項目があるわけでもなく、これらの検査では異常は認めません。しかし、過敏性腸症候群で見られる腹痛や排便異常などの症状は、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患や、大腸癌などの器質的疾患でも同様の症状が見られることがあります。そのために、腹部エコーや大腸内視鏡検査などの画像検査、また血液検査などによりそれらの器質性疾患が存在しないことを確かめる必要があります。これらの検査で、明らかな器質的な異常が腸管自体に認めない場合で、症状の性質や発症様式、病状経過などが過敏性腸症候群に当てはまる時に、臨床的に過敏性腸症候群と診断することになります。

参照ブログ:潰瘍性大腸炎


過敏性腸症候群の治療

過敏性腸症候群の治療としては、食事・運動など生活習慣を整えることがまず大切になります。暴飲暴食を避け、食物繊維を含むバランスの良い食事を心がけ、過度な飲酒や香辛料、脂肪分の多い食事の摂取は症状を悪化する可能性があるためになるべく控えるようにします。また、ストレスや不安により症状が悪化する傾向があるために、ストレスや過度な疲労となる要因をできるだけ避け、十分な睡眠をとり、適度な運動を行い、規則正しい生活を送るように心がけましょう。

生活習慣を整えても症状が改善しない場合には、内服薬による薬物療法を併用することもあります。薬物療法としては、腸内細菌叢を整えるための整腸剤の内服や、腸管蠕動を整えるための内服薬を使用したり、便の水分バランスを調節して便の固さを整える薬などを併用することもあります。