· 

排便障害(便が出ない)

排便障害(便が出ない)

排便障害(便がでない)とは

排便障害では便を十分排出できないことで腹部の膨満や腹痛、残便感などの症状を生じます。排便障害の原因には、腸管内腔の形態異常はないものの腸管の蠕動運動が低下することで生じる機能性の排便障害と、小腸や大腸の内腔が狭窄し物理的に排便が困難になる器質性の排便障害があります。頻度として多いのは「いわゆる便秘」である機能性の排便障害です。本来出すべき便を快適に十分な量を排出できず日常生活に支障をきたす状態が便秘で、排便障害の症状がどれくらい深刻であるかに関しては個人差もあり、2-3日便が出ないと不快に感じる人もいれば、週に1回程度の排便でも深刻な症状を認めない人もいます。排便障害の原因が機能性の便秘である場合には、規則正しい生活をしてストレスを減らし、食物繊維を摂取するなどの生活習慣の改善で症状が軽減することも多いものの、症状が強い場合は内服薬での治療が必要になります。また、機能性の排便障害における腸管の蠕動運動低下には、抗精神病薬の内服など薬の影響や、甲状腺機能低下症やパーキンソン病などの他疾患の影響がある事もあり、これらの要因が関係している時は内服薬の調節や原疾患の治療が必要になります。器質性排便障害の原因には、腸閉塞による腸管閉塞や、大腸癌などの腫瘍性病変、クローン病や虚血性大腸炎などで生じる腸管狭窄があげられます。


排便障害の症状と原因

様々な原因により排便回数が減少し排便量が低下すると、腹部膨満感や腹痛、排便困難や残便感などの症状を自覚するようになります。また、腹部の膨満がひどくなると、時に吐き気や食欲不振、嘔吐などの症状も併発することもあります。腹部膨満感や残便感を解消しようとして、必要以上にトイレで腹圧をかけて排便しようとすると、腹圧上昇などが原因となり大腸への血流が一過性に阻害されることで虚血性大腸炎を発症し、血便や腹痛を認めることもあります。また便秘になり腸管内に便が長時間停滞すると、便の水分含有量が減少し便自体が固くなることも多く、いきんで硬便を排出すると肛門に負担がかかり、痔核や裂肛などの痔疾患を併発し出血や肛門の痛みを自覚することもあります。便が出なくなる原因には、腸管内腔が何らかの疾患により物理的に狭窄して通過障害が起こる器質的な排便障害と、腸管内腔の形態異常は認めないものの、腸管の蠕動運動の低下などにより排便がスムーズに行われない機能的な排便障害があり、種々の疾患や病態がそれぞれの排便障害の原因として挙げられます。

機能性排便障害の原因

●機能性の便秘(いわゆる便秘症)

腸管の形自体には異常はないものの、腸管の蠕動機能が低下して起こる「いわゆる便秘」です。食物繊維の摂取不足などの生活習慣が関与していることも多く、運動不足やストレスなどにより自律神経のバランスが乱れることなども症状悪化の一因となります。高齢になるほど発生率は上がり、加齢に伴う腸管運動機能低下や腹筋の筋力低下なども関与していと考えられています。

●内服薬による機能性便秘

抗精神病薬や、オピオイド系など一部の鎮痛薬を使用している方は、それらの薬の副作用のために腸管の蠕動運動が低下して、しばしば機能性の排便障害を発症することがあります。これらの腸管蠕動を抑制する作用のある薬を内服している場合は便秘薬の併用が必要なことも多く、また必要に応じて便秘の原因となっている内服薬を減量・中止できれば、便秘の症状を軽減できることも多いです。

 

●他の病気による腸管蠕動低下(症候性便秘)

甲状腺機能低下症やパーキンソン病がある人ではしばしば腸管蠕動運動の低下を認め、時に便秘(症候性便秘)を併発することがあります。それらの基礎疾患に対する治療を適切に行うことで便秘の症状が軽減されることも多く、原疾患に対する治療が必要になります。また便秘型の過敏性腸症候群でも、内服薬での治療を必要とすることがあります。

器質性排便障害の原因

●大腸癌などの腫瘍性病変

 大腸癌などの腸管の腫瘍性病変では、病変が大きくなると腸管内腔を狭窄・閉塞することにより排便障害を起こすことがあります。大腸癌などの腫瘍は高齢者になるほど発生率が上昇するため、特に高齢者において高度な排便障害を認めたり血便がある場合には、腫瘍性病変による器質性排便障害の可能性を考えて大腸内視鏡による精密検査が必要になることも多いです。

●腸閉塞による排便障害

以前に腹部の手術歴のある人は手術の影響により腸間膜の癒着を認め、時に小腸の狭窄や閉塞を起こす癒着性の腸閉塞を起こすことがあります。また手術歴のない人でも、ヘルニアや腹腔内索状物などのために腸閉塞を起こすことがあり、腸閉塞を起こすと小腸内に食物や消化液が滞留し、排便が停止して腹痛や腹部膨満、嘔吐などの症状を発症します。

●その他の疾患の炎症に伴う腸管狭窄

比較的稀ではあるものの、クローン病や、大腸憩室炎、虚血性大腸炎などの疾患により腸管に高度炎症をきたすと、その炎症により腸管内腔が狭窄・閉塞することで腸管内容物の通過障害をおこして排便障害を起こすことがあります。物理的な腸管狭窄が高度で通過障害が高度である場合には、外科的な手術により通過障害の治療が必要になることもあります。

 

排便障害の原因となる病気の検査と診断

排便障害の診断では、血便や嘔吐、腹痛など排便障害に付随する症状の有無や、病状経過、現在の内服薬、腹部の手術歴や既往歴などをチェックすることで、排便障害の原因をある程度推定できることもあります。また、血液検査では便秘の原因となる甲状腺機能低下症の有無や、大腸癌などの腫瘍性病変で併発することがある貧血の有無なども確認できます。さらに、レントゲンやエコー、CT検査などの画像検査を行うことで、腸管の拡張状況や便の貯留状態を評価することができます。レントゲン検査では腸閉塞の場合には鏡面像と言われる小腸ガスと腸液のコントラストが見られる所見が確認できたり、便秘症における大腸ガスや便の貯留状態などを評価できることもあります。エコーやCT検査でも、腸管の拡張や肥厚像などをチェックし腫瘍性病変の有無を確認したり、腹水貯留の有無などを調べることで、排便障害の原因を推定できることもあります。排便障害の診断では、腫瘍性病変など腸管の狭窄を起こす器質性病変の有無を適確に診断することが重要です。ただし、エコーでは空気があるとその裏側が影になって見えず、腸管ガスを内部に含む腸管の病気は適確に評価できないこともしばしばあるため、原因疾患の確定には内視鏡による精密検査が必要になることもあります。


排便障害の原因となる病気の治療

排便障害の原因となる病気に対する治療法は、それぞれの原因によって異なります。器質性の排便障害が原因である場合には、便が通過困難な狭窄部が存在しており、その物理的な狭窄部を取り除くために外科的治療が必要になることも多いです。以前の腹部の手術などの影響で腸間膜の癒着が起こり発生する癒着性の腸閉塞では、一時的に鼻から小腸にイレウス管と呼ばれる長い管を挿入して小腸に貯留した腸液を体外に排出し、絶食と点滴を行い腸管安静を保つ保存的治療で改善することもありますが、保存的な治療で改善しない腸閉塞や血流障害を伴う絞扼性の腸閉塞などでは外科的な治療が必要になります。大腸癌などの腫瘍性病変による腸管狭窄がある場合も、患者さんの全身状態などにもよりますが、物理的な狭窄部となっている病変部に対して外科的治療が選択されることも多いです。また、稀ではあるもののクローン病や憩室炎や虚血性大腸炎などの炎症に伴う腸管狭窄でも、狭窄が高度になれば外科的治療が必要になります。一方で、大腸内視鏡検査の検査で器質的な通過障害が認められない機能的な排便障害では、便秘薬などの使用により排便障害に対する治療を行います。また、腸管蠕動を低下させる内服薬の服用や、腸管運動を低下させるような基礎疾患(甲状腺機能低下症やパーキンソン病など)がある場合、それらの内服薬の減量・中止を行ったり、基礎疾患の治療を行うことで排便障害を軽減できることもあります。