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虚血性大腸炎

虚血性大腸炎

虚血性大腸炎とは

虚血性大腸炎とは、一時的に大腸への血流が滞ることで大腸粘膜に損傷をきたし、腹痛や血便を起こす病気です。大腸は上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の2本の動脈から血液を受け取っていますが、その2本の動脈の血流領域の境界にあたる下行結腸からS状結腸にかけて虚血性大腸炎は好発します。腹圧を強くかけたりすることなどが誘因となり、腸管への血流が一時的に低下し、大腸粘膜にびらんや潰瘍を発生すると考えられています。便秘などのためトイレで腹圧をかけてきばった後、何度か便がでて便意が少し落ち着いてから腹痛と血便が出現するというのが典型的な発症様式ですが、腹圧をかけなくても発症することもあります。また糖尿病や高脂血症などにより動脈硬化がある人に発症しやすいともいわれています。腸管の虚血は一過性のことが多く、食事指導などで腸管の安静を図り、腹圧をかけず排便コントロールを行う保存的治療で多くの場合は改善しますが、ごくまれに腸管の壊死や狭窄をきたすこともあり、その場合は外科的手術が必要になることもあります。また虚血性大腸炎の発症に、腫瘍性病変などによる腸管狭窄が関与している事が時にあり、一度は全大腸内視鏡検査による精密検査が勧められます。

 


虚血性大腸炎の症状

虚血性大腸炎では、たいていの場合には腹痛と血便を認め、「急激な腹痛の後の血便」というのが典型的な症状です。腹痛とともに下痢が見られることも多く、何度か下痢状の便が出ているうちに便の中に血液が混入して血便を認めるようになることが多いです。一般には腹痛と血便が見られますが、典型的ではない場合は、血便はあるものの腹痛がないことや、逆に腹痛を認めるものの血便がはっきりしないこともあります。虚血性大腸炎は体の左側にある下行結腸や、骨盤内のS状結腸に好発するために、腹痛は左側の側腹部や下腹部に痛みを認めることが多く、時に吐き気や嘔吐、冷や汗を伴うこともあります。

虚血性大腸炎の原因

虚血性大腸炎は、一過性に大腸に流れる血液量が低下することにより起こります。血管側の因子としては、高血圧や糖尿病、高脂血症などにより血管に動脈硬化が生じていたり、血流低下が起こるような基礎疾患がある患者さんに発症しやすいといわれています。そのため、一般的には高齢の患者さんに起こりやすいのですが、時に若い患者さんでも発症することがあります。腸管側の要因としては、便秘や排便時のいきみや、腸管の蠕動運動などにより腸管内圧が上昇することが発症の大きな要因であり、排便障害や排便習慣などが発症に大きくかかわっているとされています。また、大腸癌などの腫瘍性病変などにより腸管の狭窄があったすることにより、便の排出障害が起こることで、腸管内圧が上昇することも発症の誘因になることがあります。

参照ブログ:便秘症 大腸癌


虚血性大腸炎の検査と診断

虚血性大腸炎は、内視鏡検査や腹部エコー、CTなどの画像検査によって診断します。好発部位であるS状結腸から下行結腸にかけての大腸壁が連続して肥厚していることが、腹部エコーや腹部CTで確認できれば、その特徴的な症状や発症様式とあわせて、虚血性大腸炎の診断をします。また内視鏡検査では、真っ赤にただれた縦走傾向のあるびらんや潰瘍などの粘膜障害が観察されます。虚血性大腸炎の治療では、腸管の安静が大切です。そのため、腸管洗浄剤を飲んで大腸内の便をすべて排出して行う全大腸内視鏡検査での精密検査は、急性期には腸管に負担になることがあり、急性期に内視鏡検査で観察する場合は、浣腸のみの前処置で直腸とS状結腸あたりのみを観察する方法がしばしば選択されます。ただし、虚血性大腸炎の発症には、稀に大腸の腫瘍性病変による腸管狭窄が関与することもあります。また潰瘍性大腸炎などの特殊な腸炎でも、連続性の大腸の壁肥厚を認めるため(典型的には潰瘍性大腸炎の場合、病状経過が長期のことが多く病状経過などで判断できることも多い)、それらの疾患との鑑別なども必要です。そのためエコーやCTで虚血性大腸炎と診断されても、保存的治療で病状が軽快した後に、一度は全大腸内視鏡検査による精密検査を行うことが勧められます。

参照ブログ:超音波検査(大腸②)


虚血性大腸炎の治療

虚血性大腸炎は、軽症である場合には腹圧をかけたりすることを控えて、内服薬の服用などを行うことと、一時的に絶食にして水分摂取のみにしたり、消化の良いものを食べる食事管理を行って腸管の安静を保つ保存的な治療で改善することが多いです。発症に便秘が関与していることも多く、内服薬で便を固くしないようにして、排便コントロールを行うことも必要です。しばしば便器が真っ赤になるほどの血便を認めますが、一過性の粘膜障害であり輸血が必要になるほどの大量出血になることは稀で、予後は比較的良好とされています。ただし、炎症が高度の場合には、ごく稀に大腸の狭窄や、腸管壊死や穿孔を認めることがあり、そのような場合には手術による外科的治療が必要になることもあります。