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腎盂腎炎

腎盂腎炎

腎盂腎炎とは

腎盂腎炎とは、腎臓と尿管をつなぐ接続部位である腎盂に細菌感染をおこし発熱などの症状を認める病気です。腎臓で作られた尿は、通常では腎臓内の腎盂に集められ、腎臓と膀胱をつなぐ尿管という管を通って下腹部の膀胱に移動し、その後体外に排出されます。体外から侵入した細菌が尿道を通って膀胱内に移行し、尿の流れの向きに逆らって逆行性に尿管を通って腎盂まで侵入することで腎盂腎炎は起こります。腎盂腎炎を発症すると、高熱や背部痛を認め、時に嘔気や嘔吐などの消化器症状を認めることもあります。また炎症が高度になり細菌感染が広がると、血管内を流れる血液に細菌が侵入することで敗血症という状態となり血圧低下や臓器障害など全身状態の悪化をきたすこともあります。腎盂腎炎の診断は、尿路感染が疑われる症状と背部痛や高熱を認め、検尿や血液検査で尿路への細菌感染の有無や炎症反応の上昇などが確認されることで診断されます。腎盂腎炎は抗生剤を一定期間投与することで多くの場合改善しますが、尿管結石や尿路の腫瘍性病変などの併存により尿の排出障害を伴っている場合には、専門の泌尿器科でステントを挿入するなど閉塞を解除する治療が必要となることもあります。


腎盂腎炎の症状

腎盂腎炎では腎臓内の尿の集積場所である腎盂に細菌感染を起こし、38度以上の高熱や、悪寒、寒気などの症状を認め、悪心や嘔吐などの消化器症状を伴うこともあります。腎臓に細菌感染をきたすために腎臓がある背部に強い痛みを生じ、腎臓がある背中の場所を叩くと強く響く背部痛を認めます。しばしば膀胱炎を合併して、膀胱炎の主症状である頻尿や排尿時痛、残尿感や血尿、膿尿などを認めることもあります。腎臓は尿を生成する器官で、たくさんの血管が集まり血流の豊富な臓器です。腎盂腎炎による細菌感染が高度になると、腎臓内の血管に流れる血液中に細菌が侵入して、血圧低下や臓器障害などを引き起こし全身状態が悪化する敗血症の状態となることもあります。腎盂腎炎は、尿の流れの向きに逆らって逆行性に細菌が感染することで多くの場合起こります。尿管結石や尿路の腫瘍性病変などが有ることで、尿管の閉塞や狭窄をきたし尿の流出が滞ると、細菌感染をおこしやすくなり腎盂腎炎を発症しやすくなります。尿管結石や腫瘍性病変により尿の流出障害が起こると、尿管や腎内腎盂の拡張をきたす水腎症を認めたり、血尿を伴うこともあります。また閉塞性病変のために尿の流出障害をきたすことで、尿量低下を認めることもあります。


腎盂腎炎の原因

腎盂腎炎は、体外からの細菌が尿の流れに逆らい尿管から腎盂まで侵入する逆行性感染により発生し、その原因菌としては大腸菌が最多です。大腸菌は腸内細菌の一種で大腸内の便中や肛門付近に存在します。肛門周囲の大腸菌が尿管から膀胱に侵入し、尿管・腎盂と逆行性に感染を起こすことで腎盂腎炎は起こります。一般的な腎盂腎炎は、尿路の異常や全身状態の異常がなく起こる単純性腎盂腎炎で、多くの場合は大腸菌を中心とした腸内細菌の逆行性感染により起こります。しかし、難治性であったり頻繁に繰り返す腎盂腎炎では、それ以外の要因が関与している事があります。一般的に尿路に侵入した細菌は排尿による物理的な排出や、免疫機能による細菌排除により退治されるため、膀胱炎になっても容易には腎盂腎炎にはなりません。しかし、尿管結石や尿路の腫瘍性病変などの尿路の通過障害を起こす病気や、馬蹄腎や膀胱尿管逆流症などの解剖学的な尿路異常がある場合、尿道カテーテルの留置、あるいは糖尿病などの免疫機能の低下をきたす病気の併発や、ステロイドや免疫抑制剤など免疫力を低下させる薬での治療を行っている場合におこる腎盂腎炎は、複雑性の腎盂腎炎といわれ、腎盂腎炎が難治性であったり繰り返したりすることがあります。複雑性腎盂腎炎では、緑膿菌や腸球菌などの感染により腎盂腎炎が起こることもあります。


腎盂腎炎の検査と診断

腎盂腎炎の診断は典型的な症例であれば、高度の発熱と背部痛、尿路感染症を疑わせる頻尿や排尿時痛、血尿などの症状を患者さんからお聞きすることで、腎盂腎炎の可能性を強く疑うこともできますが、腎盂腎炎では検尿の検査で尿中に細菌の混入や白血球の増加や血尿の所見がしばしば確認できます。また血液検査で炎症の程度などを評価することで、腎盂腎炎の重症度や敗血症の可能性などをある程度評価できます。腹部エコーの検査では、炎症により腎臓が腫大し腎臓の短軸径が丸みを帯びて腎臓が緊満したように見える像が確認されたり、腎臓内部に微細な膿瘍が濃淡のムラとして見えることで腎盂腎炎が疑われることもあります。しかし、腎臓の大きさには個人差がもともとあることから、エコー検査では正常の腎臓の画像と判別が困難なことも多く、エコーのみでは腎盂腎炎の確定診断は多くの場合困難です。ただし、尿管結石や尿路の腫瘍性病変などが併存している腎盂腎炎では、尿の通過障害が起こり腎臓内の腎盂拡張をきたす水腎症を合併していることもしばしばあります。そのため難治性の腎盂腎炎となる複雑性の尿路感染症の鑑別には、エコーによる画像検査が有用で、それらの尿路の閉塞性病変の有無を評価するためエコーでの画像検査が必要になることもあります。


腎盂腎炎の治療

腎盂腎炎の治療では、基礎疾患のない軽度の単純性腎盂腎炎で患者さんの全身状態が比較的安定し食事や水分摂取が可能である場合には、外来での抗生剤投与での改善が期待できます。連日外来で抗生剤の点滴をしたり、状態が安定していれば内服薬での抗生剤投与を一定期間行うことで改善することも多いです。ただし、糖尿病などの免疫力が低下している人や高齢の患者さんなどでは、腎盂腎炎により全身状態の悪化をきたすことがあり、中等症から高度な腎盂腎炎では、患者さんの全身状態にもよりますが、入院での治療が必要になることもあります。また腎盂腎炎により敗血症をきたし全身状態が悪化するような場合には、全身状態の管理を含めた集中治療が必要になることもあります。さらに、尿管結石や腫瘍性病変、尿路の異常などにより、腎臓からの尿の通過障害がある複雑性の腎盂腎炎の場合には、尿路の閉塞を解除し細菌感染を起こして鬱滞した尿を排出するために、尿が鬱滞し閉塞した尿路にカテーテルやステントを挿入したりするドレナージ治療が、専門の泌尿器科で必要になることもあります。