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食道癌

食道癌

食道癌とは

食道は、のど(喉頭)と胃をつないでいる管状の臓器で、口から食べた食物は重力に従い胃に移動します。食道自体の壁も蠕動運動で動くことにより、食物を胃に送り込む機能はありますが、食べ物を消化する機能は食道にはありません。この食道に発生する癌が食道癌です。食道のどの部分にも癌はできる可能性はありますが、日本人に最も多いのは食道の真ん中あたりの中部食道で、次いで下部食道に発生しやすい傾向があります。食道癌は、食道の最も内面側の粘膜層から発生します。癌が大きくなると深層に広がり、食道周囲の気管や大動脈など周辺臓器に直接広がっていきます。食道壁内のリンパ管や血管に癌が侵入すると、癌細胞はリンパや血液の流れに乗って肺や肝臓などの他の臓器に転移することもあります。癌が粘膜内などの浅い層にとどまる早期食道癌の一部のものでは、その形態などにもよりますが、内視鏡での切除による治療で完治が期待できることもあります。また内視鏡治療が難しい早期食道癌や進行食道癌でも、手術や抗がん剤、放射線治療を組み合わせて治療することで、完治が望めることもありますが、病状が進行すると集学的治療を行っても完治が難しいこともあります。初期の食道癌はほとんど症状がないことが多く、定期的な内視鏡検査による早期発見と早期治療が、食道癌の治療には大変重要になります。


食道癌の症状

初期の食道癌は、自覚症状がないことがほとんどです。癌が進行してくると、食事をたべるときに胸に違和感を自覚したり、全身倦怠感や、体重の減少、胸や背部の痛みや、咳や声がかすれたりする症状が出ることもあります。食べ物が飲み込みづらかったりするような、嚥下障害が発症している場合には、癌は大きな進行癌になっていることが多いです。

食道癌の原因

食道癌の主な原因としては、飲酒と喫煙があげられます。西洋人は胃酸の逆流が主な原因となる腺癌といわれる食道癌の発生率が高いのですが、日本人の食道癌には扁平上皮癌という癌が多く、扁平上皮癌の発生には飲酒と喫煙が大きく関与しているといわれています。飲酒をすると体内でアセトアルデヒドが発生しますが、アセトアルデヒドは発癌作用があるため、アセトアルデヒドを分解する酵素の活性が生まれつき弱い人は、食道癌の発生率が高いことが報告されています。お酒を飲むと顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドを分解する酵素活性が弱く、飲酒後にアセトアルデヒドが体内にたまりやすい人であり、このような人には習慣的な飲酒が食道癌のリスクとなりえます。また、大量飲酒と喫煙の習慣がある人には、発癌の危険性が相乗効果で上がることも指摘されています。それ以外には、熱い食事や熱い飲み物を摂取することが、食道癌の発生率を高めることも報告されています。

食道癌の検査と診断

食道癌の診断方法には、バリウム検査や内視鏡検査がありますが、バリウム検査では無症状の早期食道癌の発見は難しいことも多く、内視鏡検査が勧められます。早期の食道癌は、微細な粘膜の凹凸やごく軽度の発赤などの色調変化しか認めないことも時にあり、内視鏡検査でも発見に難渋することもあります。そのため、癌発見には質の高い内視鏡検査が求められます。NBI(Narrow Band Imaging)の特殊光による内視鏡検査(特殊な光でみる内視鏡画像)では病変が褐色に見え、発見の難しい早期食道癌も見つけやすくなることがあります。詳細な内視鏡観察で食道癌が疑われた場合、その部位の細胞を採取し、癌細胞の有無を直接顕微鏡で調べる病理検査を行い、食道癌の確定診断は行われます。

食道癌の存在診断がされると、治療方針を決めるために癌の広がりの評価が必要になります。食道壁内の深達度診断のため、超音波内視鏡が行われたり、また超音波検査、全身のCTやMRI検査により、肝臓や肺など他臓器への癌の転移の有無を調べます。血液検査は補助的な検査として用いられ、貧血の有無、腎臓・肝臓の状態などを評価します。食道癌では時に腫瘍マーカーが上昇しますが、癌であっても上昇しないこともあります。これらの検査を総合的に判断し、個々の食道癌に対する最善の治療法を決定します。


食道癌の治療

食道癌の治療は、癌の進行度を適確に評価しその段階に応じて治療方針を決定します。リンパ節転移の可能性がない浅い層にとどまる早期食道癌の一部のものは、内視鏡切除による根治が可能です。内視鏡治療が難しい早期食道癌や進行癌の場合も、病変の広がりに応じて、手術や放射線治療、抗がん剤治療などの集学的な治療が選択されます。病変自体の状態や広がり以外に、患者さんの体力や、全身状態、持病の有無なども治療方針の決定には重要で、それらを総合的に判断し、個々の患者さんに最良の治療方針を決定していきます。